特任研究員の孫聴雨さんによるコラム「日本のドラマの魅力」を追加しました。
日本のドラマの魅力
こんにちは。特任研究員の孫聴雨です。今回は好きな日本のドラマの話をします。
日本のドラマが好きです。これは特に日本語学習の経験と関係なく、日本語を勉強する前から好きでした。なぜかというと、日本ドラマのキャラづくりにはすごく惹かれるからです。一番好きなドラマは『過保護のカホコ※1』です。このドラマの主人公、カホコはいわゆる箱入り娘で、生活における意思決定をすべて母親にゆだねる22歳の女子大学生です。ドラマの初め、私はまったく主人公の魅力を感じることができませんでした。何ひとつ頑張らないし、自分の意志を持たない人のどこが可愛いのかと理解不能でした。でも、物語が進むと、カホコははじめ君という学生と出会い、はじめ君への恋愛感情を通して、だんだん変わりました。いつの間にか私は応援したくなっていました。ここで日本のドラマの一つの特徴に気づきました。それは平凡な主人公の人物像を細かく作り込んで、成長させ、共感を求める点でです。共感が求められる主人公は情けない主人公だけではなく、犯罪を犯す主人公や、道徳的規範から外れている主人公もいます。
『黒革の手帖※2』の原口元子は銀行員の地位を利用して、大金を横領した後、銀座のクラブのママとなりました。ドラマの題材に「犯罪」というテーマを選んだが、最後に裁くわけでもなく、そのまま成功させました。私から見ると、むりやりに「罰を与える」という正しい結末をつけるのではなく、そのまま成功させる物語が興味深いです。人が野望を持ち、それを成し遂げるということの魅力を感じました。
『昼顔※3』というドラマの名称の意味は夫がいない平日昼間に不倫をする主婦のことをさしているそうです。主人公の笹本紗和はもともとごく平凡な主婦ですが、高校教師の北野との出会いによって、少し変わりました。自分の中でもがいた結果、やがて越えてはいけない一線を越えてしまいました。「不倫」をテーマにする作品が日本で特に多い感じがして、不倫というテーマをドラマの題材にして、これほど多くの人が受け入れることにびっくりしました。でも確かに私も日本の不倫を題材とするドラマをみて、道徳的に許されない恋愛なのに、普通の恋愛のような純粋さが感じられます。
このような他人からの共感を得られなさそうな主人公と出会う時、私が抱いた最初の感想は「なぜこのような人でも主人公になれたの」でした。物語を作る時、平凡な人はいいですが、悪役まで主人公にするのが私から見るとすごく新鮮でした。しかし、物語が進むと共に、犯罪者や不倫者といってもやはりみんなと同じで普通の人でもあることがわかりました。だんだん主人公と共感できるようになって、いつの間にか納得ができました。
これは価値観の話につながると思います。今までの教育でなんとなく「正しい」ものだけを追求することを期待されてきたため、このような独特の主人公を見ると、間違っているとつい思っています。しかし、実際いろいろなことを経験してみると、人の両面性が見えてきました。人というのは自分と自分の人生を完全にコントロールできる生き物ではなく、みんながみんな順風満帆の人生が歩めるわけではありません。窮地に陥った時にはあがいたり、自分のために何かをやってしまったりすることも現実には起きうるのではないでしょうか。
誰でも少しぐらいあがいたことがあり、共感を生み、このような作品がヒットしたのかなと思います。このような主人公から自分や価値観についていろいろ考えさせられてとてもいい経験になりました。完璧ではない主人公の物語を楽しんでみてはいかがでしょうか。
※1『過保護なカホコ』は2017年に日本テレビ系で放送されたドラマ。
※2『黒革の手帖※』は松本清張の長編小説、何度もドラマ化にされた作品。
※3『昼顔※』は2014年にフジテレビ系で放送されたドラマ。
孫聴雨
TAコラムを追加しました
TFの新井凜子さんによるコラム「学術日本語コラム-主述のねじれ」を追加しました。
学術日本語コラム-主述のねじれ
こんにちは、日本語チュータリング担当TAです。
日本語で文章を書く際のよくあるミスに、「主述のねじれ」があります。
「主述」とは、「主語」と「述語」のことです。
「主述のねじれ」とは、修飾語などを抜いて主語と述語だけをつなげて読んだときに、主語に対して述語が合っていない状態のことを指します。
では主述のねじれについて、具体的に見ていきましょう。
「私の夢は宇宙に行きたい」という文章は主述がねじれています。
主語と述語だけを取り出してつなげてみると「夢は行きたい」になります。
「行きたい」のは「私」であって「夢」ではないですよね。
また「夢」は「行きたい」のではなく「(宇宙に)行くこと」です。
つまり、主語と述語だけで読んだときに、両者がうまくつながっていないのです。
「私の夢は宇宙に行くことである」とすると、主述が一致した文章になります。
では、以下の例はどうでしょうか。
「この結果」という主語と、「示唆している」という述語の間に長い修飾語が入っています。
修飾語を除いて、主語と述語だけで見てみると、前者は「この結果は示唆している」となり、主述が一致している=正しい文章になっています。
一方、後者は「この結果は示唆される」となり、主述のねじれが発生しています。
「示唆される」のは「AとBの間には何らかの相関関係があること」であって、「この結果」ではありません。
つまり、以下の文章なら主述のねじれがない正しい文章になります。
学術的な文章では、複雑な内容を説明しようとして、一文が長くなる傾向があります。
結果、文章の最初の方にあることが多い主語と、文章の末尾にある述語の間の距離が長くなり、ネイティブでも主述がねじれた文章を書いてしまうことが多々あります。
私自身も自分で書いた文章を読み直していて主述がねじれていることに気づくことがあります。
ミスを防ぐコツとしては、以下の2つが挙げられます。
①主語と述語だけで読んでみる。
②適度な長さで一文を切る。長すぎる文章を書かない。
特に②について、読みやすい日本語の文章は一文が50文字程度、長くても80文字以内といわれています。
一文が長くなればなるほど、文章が複雑になり、主述のねじれが起きやすくなります。
文章が複雑だと感じたら、一文を二文、三文に分けることも検討してみてください。
新井凜子
【参加者募集】東アフリカとスワヒリ語ワークショップ
7/13 (木) より全3回シリーズで「東アフリカの文化とスワヒリ語ワークショップ」を開催します。
東アフリカで広く話されているスワヒリ語のあいさつやごく基本的な文法とスワヒリ語が話されている地域 (主にタンザニア・ケニア) の文化についてあつかいます。
前半が東アフリカの文化についての説明、後半はスワヒリ語についての説明と練習という構成で、練習部分では、参加者同士での練習のほか、タンザニア人とのオンラインでの練習も実施します (日程未定)。
日程: 7/13, 20, 27 (いずれも木曜) 全3回 (単回参加・途中の入退室も可)
時間: 13:30-14:50
場所: OUマルチリンガルプラザ (豊中・サイバーメディアセンター 4F) もしくはZoom
各回の構成 (変更の可能性あり・昨年度参加された方へ→内容はほぼ同じです)
1. 東アフリカとは?/スワヒリ語とは?話されている地域は?・あいさつその1
2. 東アフリカの食べ物・布/スワヒリ語のおもしろいところ・あいさつその2
3. 東アフリカの芸術 (音楽・ポップアート)/自己紹介
お申し込みはこちらから
【参加者募集】JLPT N2合格を目指した勉強会
仲間と一緒に12月の日本語能力試験(JLPT)のN2合格を目指しませんか。
対象:JLPT試験(N2)に向けて学習している日本語学習者
日時:7月の毎週水曜日 12:10-13:00 (初回は7月5日)
場所:OUマルチリンガルプラザ
(豊中キャンパスサイバーメディアセンター4F)
内容:・試験対策の情報を提供します
・質問に対応します
・学習者一人一人の状況に合わせたアドバイスをします
※JLPTの経験者である大学院生スタッフがサポートします
※予約は下記のURLから
(当日の飛び入り参加も可能です)
https://forms.gle/mido133K39JWcZYU7
ポスターはこちら
【参加者募集】TA企画「世界のお菓子大集合!」
OUマルチリンガルプラザは豊中キャンパス・サイバーメディアセンター4Fおよび吹田キャンパス・ICホール2Fにある、自律的な外国語学習を支援する施設です。
7月3日 (月) に実施予定のTA企画「世界のお菓子大集合!」の参加者を募集します。
以下詳細
みなさんは世界のお菓子を食べたり作ったりするのは好きですか?世界には多種多様な食文化があり、世界の料理を味わうことでその背景にある文化を知ることができます。
そこで、OUマルチリンガルプラザTA企画として「世界のお菓子大集合!」を開催します。今回は主にアジア、中東・北アフリカで愛されているお菓子とそれに関わる文化を紹介します。なおこのイベントは対面開催を予定しています。
日時:2023年7月3日(月)12:15~13:15
場所:OUマルチリンガルプラザ(豊中サイバーメディアセンター4階)
形式:対面、先着10人、要予約
申し込みはこちらから
お待ちしています!
TAコラムを追加しました
特任研究員の孫聴雨さんによるコラム「面白い「使役受身」」を追加しました。
面白い「使役受身」
こんにちは。特任研究員の孫聴雨です。前回は日本語を学習するきっかけをシェアしました。今回はその続きで、そのあと日本語研究をはじめようとしたときの話をします。
私は現在日本語の使役受身を研究課題としています。非母語話者の立場で日本語を学習していく中で、とても面白いと思ったのが使役受身です。例えば、友達と約束をして、友達が一時間も遅刻しました。後日、他の人と話をするとき、「昨日、すごく待たされた」と日本語で言えますね。でも、この文を私の母語中国語にすると、言い方を変えなければなりません。中国語には「使役受身」がないので、「他让我等了好久(彼はずいぶん私を待たせた)」か、「我等了他好久(私は彼をずいぶん待った)」のどちらなります。「他让我等了好久(彼はずいぶん私を待たせた)」は使役文で、「他(彼)」が主語なので、自分の気持ちを言っているより、彼について話している感じがします。使役受身文と少し意味が違います。「我等了他好久(私は彼をずいぶん待った)」はいわゆる受身と対応する能動形なので、「強制・被害」の意味ではなく、話者の主体的な行為のようにも捉えられる文になってしまいます。どれを選んでも、中国語で使役受身文を言おうとするとき、意味の喪失や転換が生じます。日本語の方は、使役受身を使い、「強制・被害」を感じさせながら、自分が主語なので、相手への誹りの感じがやや薄くなると思います。
このように、母語にはないが日本語にある表現であることから新鮮さと面白さを感じています。大学を卒業した後、大学院に入って、日本語学について研究しようと決めて、最初に思いついたのはこの使役受身です。使役受身は「何度も練習させられた」「ゲームをやめさせられた」のようにある人の命令や指示を受けて、しかたなくその動作をする意味の他に、「ドキドキさせられる」のような、感情を表す例文もあります。このような使い方は迷惑の使役受身と関連性はあるか、そもそも使役受身は具体的にどんな場面で使えるか、どんな動詞と結合できるか、どれほどの意味を表現できるかなどの問題は私の中でぼんやりしていて、それらを詳しく知りたいです。このような気持ちをもって使役受身の研究をはじめました。とても短い使役受身形なのに、あれほど複雑な意味が含まれるなんて、常に言語の不思議さを感じています。これからも研究を続けたいです。
今回は日本語の「使役受身」に触れながら、私が日本語研究を始めたきっかけをシェアしました。日本語学習者の皆さんも「使役受身」をどんどん使ってみてはいかがでしょうか。こういった話ができる相手がいない場合、マルチリンガルプラザにお越しください。プラザは多言語学習を支援する場所です。いつでも気軽に来て、日本語を楽しく話しましょう!
孫聴雨
TAコラムを追加しました
TFの新井凜子さんによるコラム「学術日本語コラム-「字下げ」って何?」を追加しました。