
TAさんによる言語学習についてのコラムの第1弾を追加しました。言語文化研究科D1の福本広光さんによる、「コーパスと言語教育・言語学習 その1」です。
6月に入り、阪大の活動基準が緩和されましたが、OUマルチリンガルプラザは課外活動に該当し、オープンの予定はまだ分かっていません。
そんな中、OUマルチリンガルプラザにて業務に従事予定のTAさんたちがオープンまでのこの期間を利用し、言語学習についてのコラムを担当してくれることになりました。これまで言語学習の経験や現在の専門を生かした言語学習のヒントなどについて書いてくれます。随時アップロードしていきますので、ぜひご一読ください。みなさんの言語学習のヒントになると大変に嬉しいです。

1. 言語学習に使えるコーパス
外国語を学ぶ時に皆さんはどのようにされているでしょうか?ほとんどの人は、教科書等を使って学習することが多いと思います。教科書や辞書に載っている表現は、いわゆる「規範」から外れていないことがほとんどです。ただし少し学習が進んでくると、教科書や文法書に載っている表現だけが全てではないことがわかってきます。例えば、「時間を尋ねる表現」は、最初に学ぶ時には “What time is it now?” と言う、と教えられることが一般的ですが、実際は “Do you have the time?” と言っていることも多いです。他にも、「アポイントを取る」と言いたい時に “take an appointment”なのか “make an appointment”なのかがわからなくなったという場合にコーパスを検索すると “take an appointment”の用例はほとんどない一方で、 “make an appointment”の場合は様々な媒体からの情報が出てきます。従ってこの場合は “make an appointment”と言うのが一般的だと言うことがわかります (これについては次回やってみましょう)。 初学者から上級者まで、学んだ表現がネイティブスピーカーの世界では実際にどのように扱われているのか気になることがあると思います。そのような場面でネイティブスピーカーが身近にいれば尋ねることができますが、いつもそのような状況にいるとは限りませんし、彼らの意見が客観的なものであるとも言い切れないことがあります。そのようなときこそ、コーパスを活用するのに最も適切な場面の一つであるといえます。
また、辞書や文法書などでは規範的に制限されている語法や表現であっても、実際には頻繁に用いられていることも、コーパスを活用することによってわかる事があります。(to perfectly understand など、to不定詞の間に副詞が挿入されるsplit infinitiveという語法がその一例)、これらは実際のデータや数値によって表されるので、比較的客観性を保ちながら言語の実態について観察することができます。
2. コーパスとは何か
コーパスの定義として石川 (2012) は複数の辞書・研究者たちの考え方を要約し、
「(1)書き言葉や話し言葉などの現実の言語を、 (2) 大規模に、 (3) 基準に沿って網羅的・代表的に収集し、 (4) コンピュータ上で処理できるデータとして保存し、 (5) 言語研究に使えるもの」
としています。つまりは実例が豊富に、かつ、あらゆるデータから満遍なく集積された、データベースのことです。現代の言語を反映したものから、通時的なもの、様々な媒体からデータが取得されたものもあります。
かつては、コーパスといえば、情報量の多さからか英語のものが一般的でしたが、後に紹介する日本語コーパスをはじめ、様々な国の言語をもとにしたコーパスが生み出されており、その使い勝手も良くなっているようです。(例:el corpus del español (スペイン語)、北语汉语语料库(BCC) (中国語)、Национальный корпус русского языка (ロシア語) など。)
3. 言語教育に活かせるコーパス
実際の教育の現場では、「使われることは多いけれども一般的に『破格』と見なされる表現や構文などを辞書に載せてもいいのか、教室で学生に教えても良いのか」という議論があります。そして、それに対してコーパスが問題解決の方針の一つを示すことがあります。特に近年では、「生きた英語」「活用できる英語」が重視されるようになってきているので、ネイティブスピーカーが使っている「中心的な用法」と「周辺的な用法」を区別することは非常に重要になってきているのです。それが辞書に載せる/載せない、教室で教える/教えないという事柄に関わる重要なポイントだからです。このことから、1で述べたこととも関連しますが、近年ではコーパスのデータに基づいて辞書が編纂されることも増えてきています。(コーパス準拠の辞書として代表的なのが、ウィズダム英和辞典、ユースプログレッシブ英和辞典など。: 石川 (2012))
4. 次回:いくつかのコーパスについて実際にさわってみた!
それでは、次回は(比較的汎用性の高いと思われる)誰でも無料でアクセスできる英語コーパスと日本語コーパスについて、実際に少しだけ検索してみたいと思います。(ただし、いずれも書き言葉が中心です)ここでは使用予定コーパスについて少しだけ紹介しておきます。
参考資料
石川慎一郎. (2012) 『ベーシックコーパス言語学』ひつじ書房:東京.
(福本 広光)
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《タンデム学習の利点》
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おうち時間が続きますがいかがお過ごしでしょうか。それぞれのうちで、テレビやインターネットやSNSを観る時間が増えているのではないかと思います。テレビやインターネットやSNSでは毎日新型コロナウイルスに関する情報がいろいろと流れていますので、そういうのをキャッチアップしている方もいらっしゃるのではないでしょうか。流行が世界中に広がっている今、いろんな国について、いろんな言語で情報が流れています。
私自身は英語の情報のほか、自分の専門のスワヒリ語のニュースをキャッチアップしています。自分の調査地であるタンザニアの状況がどうなっているか、政府や公的機関は感染拡大防止に向けてどんな策を取り、国民にどう周知しているかを知りたいという理由のほか、この話題をスワヒリ語でどう表現しているのかが気になるからです。
スワヒリ語で「ウイルス」をあらわす単語は、英語からの借用語のvirusiです。英語のvirusは単数形ですが、一部の複数名詞がvi-で始まることから、スワヒリ語ではvirusiは複数形として解釈されます。vi-から始まる複数名詞と対になる単数名詞はki-で始まりますので、ウイルスの単数形はkirusiなのかと思いウェブサイトを検索をしてみると、本当にkirusiが使われているサイトがいくつかひっかかります。とはいえ、通常はvirusiが用いられているようです。借用元の英語ではコロナウイルスはcoronavirusで、複数形はcoronavirusesです。複数形になると、数種類あるコロナウイルスの総称として解釈されるようです。スワヒリ語では通常複数形のvirusiを使いますが、この複数形はなにを複数としてとらえているのか (ひとつの種類のウイルスの数なのか、ウイルスの種類の数なのか)、逆に単数形のkirusiは何を単数としてとらえているのか…?また英語のcoronavirusesをスワヒリ語に翻訳するときにはどういう表現を使うのだろうか…と、興味はどんどん派生していきます。
いつまでつづくかわからない今の状況の中、なにか外国語を学習中の方にとっては、うちでできる、なにか楽しめる・打ち込めることのひとつとして、この新型コロナウイルス関連の情報を、その言語でどう表現しているのか調べてみるのもよいのではないでしょうか (アベマヤ)。