言語学習を始めようと思っても、続けられず途中でやめてしまうことは多い。わたしたちが「なぜその行動を選択するか(why)、どれくらい継続するか(how long)、どれくらい熱心に取り組むか(how hard)」は、モチベーションによって決められます(Dörnyei & Ushioda,2011)。このため、言語学習を頑張り続けるためには、モチベーションの維持が重要になってきます。言語学習のモチベーションとひとことで言っても、それに影響する要因は複雑であり、実際の学習環境によって違ってきます。この記事は2つのコラムに分けて、言語学習のモチベーションを保つ方法を紹介していきます。
コラム1の「自己調整ってなに?」ではモチベーションを自己調整するためのストラテジーを見ます。これは言語学習のモチベーション専門家のDörnyeiとその同僚たちが提唱するものです。コラム2の「モチベーション維持の方法」では自分の学習を自分でコントロールしようとする時にどのようにモチベーションを保つかについて紹介します。このコラムは言語学習を自分でコントロールする能力(学習者オートノミー)について研究する青木のアドバイスを取り上げます。
それぞれの方法は異なる研究者の理論に基づいていますが、中には重なる部分もあり、このサイトをご覧になるみなさんには、自分に適しているものを選んでいただき、活用していただけたらと思います。
【コラム1: 言語学習のモチベーションの自己調整ストラテジー】
ここのコラムでは、Dörnyeiたちが提言するモチベーションについて、自分で調整するためのストラテジーに焦点を当てて紹介します。マルチリンガルプラザを利用するみなさんの中には、助けが少ない環境で、1人で言語学習を進めている人もいるでしょう。ひとりで学習を進める場合には、モチベーションの維持が難しい場合があるので、「モチベーションの自己調整」(Dörnyei,2001)が重要だと言えるでしょう。自らの学習を計画し、モニタリングとコントロールを行い、内省するプロセスの中で調整行動をとることを自己調整学習」(Pintrich, 2000)と言いますが、その行動の中でモチベーションに特化したのが「モチベーションの自己調整」です。
では、言語学習のモチベーションを自ら高めるためにはどのようなストラテジーがあるでしょうか。Tseng, Dörnyei and Schmitt(2006)は以下の5つを挙げています。こちらはTseng et al.(2006:85,86)をもとに筆者が訳したものです。
⑴ コミットメントの調整:目標へのコミットメントを維持するためのストラテジー。
例えば、期待や報酬を念頭に置くこと;失敗したら何が起こるかを考えること。
⑵ 自分を客観視する調整:集中力をコントロールし、先延ばしを克服するためのストラテジー。例えば、繰り返し起こる気晴らしを特定し、それを克服するためのルーティンを作ってみること;活動を展開する第一歩にフォーカスし、とりあえずやり始め ること。
⑶ 意欲喪失の調整:学習中の退屈さや飽きを減軽し、面白さを増やすストラテジー。
例えば、タスクを改編したりするなどを通して面白さを足すこと。
⑷ 感情の調整:気分転換を行い、計画実行に適した気持ちを取り戻すストラテジー。
例えば、自らを奨励し、リラックスしたり、瞑想したりすること。
⑸ 環境の調整:環境における負の影響を排除し、正の影響を利用するストラテジー。
例えば、気が散るようなものを取り除くこと;友人に助けを求めること。
筆者の周りでは、先延ばしを克服するために、一日中に言語学習を行う時間帯を決め、習慣化を試みる方や、学習がうまく行かない時に「大丈夫!大丈夫」と自分を励ます方もいます。みなさんも自分に適しているものを選んで、活用していただけたらと思います。(陳静怡)
参考文献
Pintrich, P. R. (2000). An achievement goal theory perspective on issues in motivation terminology,
theory, and research. Contemporary Educational Psychology, 25, 92-104.
Dörnyei, Z. (2001). New themes and approaches in second language motivation research. Annual
Review of Applied Linguistics, 21, 43-59.
Tseng, W.-T., Dörnyei, Z., & Schmitt, N. (2006). A New Approach to Assessing Strategic Learning:
The Case of Self-Regulation in Vocabulary Acquisition. Applied Linguistics, 27(1), 78–102.
青木直子(2013)『外国語学習アドバイジング』Kindle eBooks.
Dörnyei, Z., & Ushioda, E. (2011). Teaching and Researching Motivation (2nd ed.). Harlow:
Longman.