面白い「使役受身」

 こんにちは。特任研究員の孫聴雨です。前回は日本語を学習するきっかけをシェアしました。今回はその続きで、そのあと日本語研究をはじめようとしたときの話をします。

 私は現在日本語の使役受身を研究課題としています。非母語話者の立場で日本語を学習していく中で、とても面白いと思ったのが使役受身です。例えば、友達と約束をして、友達が一時間も遅刻しました。後日、他の人と話をするとき、「昨日、すごく待たされた」と日本語で言えますね。でも、この文を私の母語中国語にすると、言い方を変えなければなりません。中国語には「使役受身」がないので、「他让我等了好久(彼はずいぶん私を待たせた)」か、「我等了他好久(私は彼をずいぶん待った)」のどちらなります。「他让我等了好久(彼はずいぶん私を待たせた)」は使役文で、「他(彼)」が主語なので、自分の気持ちを言っているより、彼について話している感じがします。使役受身文と少し意味が違います。「我等了他好久(私は彼をずいぶん待った)」はいわゆる受身と対応する能動形なので、「強制・被害」の意味ではなく、話者の主体的な行為のようにも捉えられる文になってしまいます。どれを選んでも、中国語で使役受身文を言おうとするとき、意味の喪失や転換が生じます。日本語の方は、使役受身を使い、「強制・被害」を感じさせながら、自分が主語なので、相手への誹りの感じがやや薄くなると思います。

 このように、母語にはないが日本語にある表現であることから新鮮さと面白さを感じています。大学を卒業した後、大学院に入って、日本語学について研究しようと決めて、最初に思いついたのはこの使役受身です。使役受身は「何度も練習させられた」「ゲームをやめさせられた」のようにある人の命令や指示を受けて、しかたなくその動作をする意味の他に、「ドキドキさせられる」のような、感情を表す例文もあります。このような使い方は迷惑の使役受身と関連性はあるか、そもそも使役受身は具体的にどんな場面で使えるか、どんな動詞と結合できるか、どれほどの意味を表現できるかなどの問題は私の中でぼんやりしていて、それらを詳しく知りたいです。このような気持ちをもって使役受身の研究をはじめました。とても短い使役受身形なのに、あれほど複雑な意味が含まれるなんて、常に言語の不思議さを感じています。これからも研究を続けたいです。

 今回は日本語の「使役受身」に触れながら、私が日本語研究を始めたきっかけをシェアしました。日本語学習者の皆さんも「使役受身」をどんどん使ってみてはいかがでしょうか。こういった話ができる相手がいない場合、マルチリンガルプラザにお越しください。プラザは多言語学習を支援する場所です。いつでも気軽に来て、日本語を楽しく話しましょう!

孫聴雨