阪大でタンデム学習をやってみた 3: タンデム学習を経験した私の心得

1 経験の振り返り:タンデム学習を成り立たせるためには何が必要なのか?
 コラム2では、阪大でタンデム学習を行った私の経験談をまとめました。このコラムでは私の内省に基づき、タンデム学習を成り立たせるためには何が必要なのか、タンデム学習の魅力は何なのかについて書きます。実際にパートナーと会って、活動したのは短い6回でしたが、この3ヶ月で私は全く知らなかったロシア語を少し読めるようになり、ロシアの文学を楽しむ趣味を持つようになりました。また、一緒にご飯を食べたり悩みを相談したりできる友達を見つけました。高いレベルのロシア語力を獲得したわけではありませんが、タンデム学習を通して、「論文の英語の要旨を書く」、「ロシア語の詩を読む」という当初の2つの目標を遥かに超えている収穫があったと感じたため、私にとっては成功した有意義な学習だと思います。この節では、この3ヶ月弱の経験を振り返り、タンデム学習を成り立たせるためには何が必要なのかについてまとめます。
最も重要だと感じたことは、自分の学習に対して責任を担うことです。どの学習にも当てはまり、フンワリとした言葉かもしれませんが、今回のタンデム学習を経験した後、「学習に責任を持つこと」は、自分で目標を設定すること、リソースの準備をすること、活動時間外の独習の時間を保障することを含むと感じています。私とパートナーはフォーマル教育における教師と学生の関係性や、雇われた家庭教師と学生の関係性ではなく、あくまでも同じ興味関心である活動に関わる参加者同士の関係性であるため、お互いの言語学習のカリキュラムやシラバスをデザインし、学期末までの到達度を決める義務はなく、誰もそのようなリクエストは出しません。このような自由な枠組みの中で、学習をデザインできるのは自分自身しかないとしみじみと感じていました。自分の学習するリソースの準備ができていない、あるいは学習期間に似合う目標と計画を自分で決めないと、初対面の相手と話す話題がなく、相槌をうつ程度のコミュニケーションで学習が締めくくられる可能性が高いと最初の2回の活動を振返りながら気づきました。目標設定を変更した3回目の活動から、私は毎回リソースを前もって準備し、活動に参加する前自分で情報検索しながらコンテンツを学習し、確認したい箇所、議論したい質問を準備するようにしました。そうなると、タンデム学習でパートナーと会う時間は自分の気づかなかったミスを気づかせてくれる貴重な機会となり、一緒にアイデアをシェア・議論する異文化コミュニケーションの場にもなりました。活動時間外の独習の時間を保障した上で、タンデムの会に臨むこと、これは3回目以降のミーティングがうまく行った最大の理由だと思います。
 相手の国の文化に興味関心を持つこともタンデムを成り立たせる重要なポイントだと思います。タンデムミーティングを行う際、パートナーはいつも中国の文化に興味を示しており、最近見た中国のニュースや自分の知っている中国の情報について質問してきて、私にメディアとは違う本当の中国について聞いていました。私がロシアの文学興味を持った時、ロシア語の詩を調べ自分の解釈を述べた時も、パートナーは喜んでくれました。このように、共通した話題から、議論や雑談の話題が徐々に広げていき、パートナーと言語学習以外にも意見交換できる話題が生まれ、徐々にいろいろな出来事に関する考え方や世界観をシェアできるようになり、2人の間で言語学習のパートナーを超えた友情的なものが芽生えたと思います。
 最後に、限定的なことかもしれませんが、今回の私の経験からお互いの属性が似ていることもタンデム学習の一助になったような気がしています。阪大のタンデムプロジェクトのスタッフが気を遣ってくれて、在日留学生、博士後期課程の院生の方をパートナーとして紹介してくれました。この2つの属性を共有していることで、私とパートナーの間でコミュニケーションがうまくいったと感じた部分が多かったです。同じ在日留学生であるため、日本で経験したカルチャーショック、異文化適応について話し合うことができました。また博士後期課程の院生同士だからこそ、学術的な英語の書き方について話し合えたし、中国語学習に関する論文を一緒に読むことができました。そのほかに、博士後期課程の学生の不安や悩みついてお互い相談し合い、慰めることもありました。このため、私にとって、パートナーにはロシア語、ロシアの文学に関する好奇心を持たせた人ではなく、異国の日本で学業を修める不安を分かち合える存在でもありました。
 以上の3点が後タンデム学習を始める皆さんの参考になれば幸いです。

2 私が感じたタンデム学習の魅力
 週ごとのタンデム学習のミーティングが終わった後、私はワクワクし、心から湧いてくる喜びを感じることが多かったです。このような気持ちは教室内における言語学習で感じたことがなく、これこそタンデム学習の魅力だと思います。この節では私が意識したタンデム学習の4つの魅力について述べます。
 最も私を魅了したところは予想外の学びを通して世界が開くことでした。最初に目標を持っていなかった段階から、すぐ到達できるような小さすぎる目標を作った段階、そして、最後の本当に心から達成したい目標を立てそれに向けて頑張っていた段階までのプロセスは、私とパートナーの2人にとっては予想外でした。また、対象言語を学習するのに、パートナーとは英語でやりとりしているため、活動が始まった最初の段階より、自分の英語が大分スムーズになったことも感じました。新しく目標を持てたことや新しい言語を学習できたことなど、私にとってタンデム学習は人間同士のコミュニケーションから、新たな学びが収穫できる学習形式です。
 タンデム学習において、私は常に複数の言語体験をしています。このことからも魅力を感じています。ロシア語と中国語の学習が主要な活動ですが、英語で話したり、日本語をついでに学んだりすることが多く、また、複数の言語圏の文化を比較することもありました。私は文法的に正しく、母語話者レベルの英語やロシア語、日本語を話せるわけではありませんが、辞書をひいたり、ジェスチャーなど非言語行動を混ぜたりしながら、2人のコミュニケーションは円滑に達成できました。パートナーは時々私の変わったロシア語や英語を指摘してくれますが、それよりも話す内容に重きを置いていました。このような学びの形式は私が高校や大学で経験した「適切さ」重視の言語教育とは異なっていました。タンデム学習なら適切さを重視するか、そうではないかを相手と話し合って決められるため、私たちは正しさよりも、言いたいことをたっぷり話すことに重きを置くことで、複数の文化体験ができたと思います。
 最後に、タンデム学習で私がいつも満足感が得られたのは、自分の進歩や変化に気づいたことからだと思います。タンデム学習を続けるためには、自分で学習をデザインすることが要求されます。次段階の学習を進めるためには、常に前段階で学習した内容を復習したり、自分の学びを振り返ったりする必要が生じます。そうすることは、実は自分を観察することであり、自分を評価することにつながります。このため、タンデム学習を行っているときは、私は学校で言語を学ぶ時よりも、常に自分の気持ちや自分の語学力のレベルに敏感でした。
 この記事を書く前の日に、私はパートナーと7回目の活動を行いました。阪大のタンデムプロジェクトの枠組み外の初めてのミーティングですが、普段よりもリラックスして学び合うことができ、2人ともタンデム学習から生まれるこの奇妙な友情を不思議に思っていました。理解してくれる友たちができたこと、これも私が感じたタンデム学習の魅力です。

【タンデムで使ったオンラインリソース】

・中国語発音・語彙学習のアプリの「Chinese Skill」
中国語のピンイン(アルファベット)を学習する際に使用しました。子音、母音一つ一つ確認できるところはありがたいです。音節に声調が加えた後の読み方や子音と母音の組み合わせの全体像はないですが、ピンイン入門の第一歩としては非常に分かりやすいと感じました。

・中国語会話学習のアプリの「Learn Chinese-M Mandarin」
基礎的な中国語会話を学習する際に使っていました。実際に中国で生活する際に出会えるティピカルな場面を動画、コミックで一個一個取り上げてくれています。コミックに載せているセリフをタッチすると、英語がついた文法の解説も出てきます。中国の風景が実際に見えること、動画で面白く学習できることの2点からお勧めです。

・英語表現をチェックしてくれるアプリの「Grammarly」
英語の文章の文法校正に使っていました。文法やスペルの間違いの指摘に加え、なぜ間違っているのか、より適切な表現はなんなのかの提案もしてくれます。文章だけではなく、英語のプレゼンテーションやメールの校正など、幅広く活用できると思います。

(陳静怡)